しに致しまするようなものと、つい此の小僧に心が引かされて、お兄様やお母様に不孝を致します、せめて此の與之助が四歳《よっつ》か五歳《いつゝ》に成ります迄|何卒《どうぞ》お待ち遊ばして」
 三「其様《そん》な分らぬ事を云っては困りますよ、お前|何《ど》うも、四歳か五歳になる迄お前の身体が保《も》ちゃアしませんよ、能く考えて御覧、子を捨てる藪はあるが身を捨てる藪はないと云う譬《たとえ》の通りだ、置いて行《い》けと云うなら置いて行って御覧、乳はなし、困るからやっぱりお前の方へ帰って来るよ、エヽ、私の云う事を聴かれませんか、是程に訳を云ってもお前は聴かれませんかえ、悪魔が魅入ったのだ、お前そんな心ではなかったが情《なさけ》ない了簡だ、私はもう二度と再び来ません、思えばお前は馬鹿になって了《しま》ったのだ、呆れます」
 と腹が立つのでは有りませんが、妹《いもと》が可愛い紛れに荒い意見をいうと、お累は取詰めて来まして癪《しゃく》を起し、
 累「ウーン」
 と虚空を掴んで横にぱったり倒れましたから、三藏は驚きまして、
 三「エヽ困ったなア、少し小言を云うと癪を起すような小さい心でありながら、何《ど》う云うもので、此様《こん》なに強情を張るのだろう、新吉の野郎め、困ったな、水はねえかな、何卒《どうか》これ、お累|確《しっ》かりしてくれよ、心を慥《たし》かに持たなければならんよ、此の大病の中で差込が来ては堪《たま》らん、確かりして」
 と一人で手に余る処へ、帰って来たは與助、風呂敷包に蚊帳の大きなのを持って、
 與「旦那取って来ました」
 三「蚊帳を取って来たか、今お累が癪を起して気絶してしまった」
 與「えゝまア、そりゃ、お累さん/\何《ど》うしただ、これお累さん、あゝまア歯ア喰いしばって、えらい顔になって、是はまア死んだに違《ちげ》えねえ、骨と皮ばかりで」
 三「死んだのじゃアねえ今|塞《と》じて来たのだが、アヽこれっ切りに成るかしら、あゝもうとても助かるまい」
 與「助からねえッてえ可哀そうに、これマア迚《とて》も駄目だねえ、お累さん私《わし》イ小せえうちから馴染ではござえませんか、私イ今ア蚊帳《かやア》取りに行く間待っても宜《よ》かんべえがそれにマア死んでしまうとは情ねえ、彼様《あん》な悪徒《あくと》野郎が側に附いて居るから、近所の者も見舞にも来ず、薬一服煎じて飲ませる看病人も
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