退《さが》っては暗くって仕様がねえ、提灯持は先へ出なよ」
新「伯父さん/\」
勘「なぜ然う続けて呼ぶよ」
新「伯父さん、師匠は全く私を怨んで来たのに違いございませんね」
勘「怨んで出るとも、手前《てめえ》考えて見ろ、彼《あれ》までお前《めえ》が世話になって、表向《おもてむき》亭主ではねえが、大事にしてくれたから、どんな無理な事があっても看病しなければならねえ、それをお前が置いて出りゃア、口惜《くやし》いと思って死んだから、其の念が来たのだ、死んで念の来る事は昔から幾らも聞いている」
新「伯父さん私は師匠が死んだとは思いません、先刻《さっき》逢ったら、矢張《やっぱり》平常《ふだん》着て居る小紋の寝衣《ねまき》を着て、涙をボロ/\翻《こぼ》して、私が悪いのだから元の様に綺麗さっぱりとあかの他人になって交際《つきあ》います、又月々幾ら送りますから姉だと思ってくれと、師匠が膝へ手を突いて云ったぜ、ワア」
勘「ア、何《なん》だ/\、エヽ胆《きも》を潰した」
新「ナニ白犬が飛出しました」
勘「アヽ胆を潰した、其の声は何だ、本当に魂消《たまげ》るね、胸が痛くなる」
と慄《ふる》えながら新吉は伯父と同道で七軒町へ帰りまして、是《こ》れから先《ま》ず早桶を誂《あつら》え湯灌《ゆかん》をする事になって、蒲団を上げ様とすると、蒲団の間に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《はさ》んであったのは豊志賀の書置《かきおき》で、此の書置を見て新吉は身の毛もよだつ程驚きましたが、此の書置は事細かに書遺《かきのこ》しました一通で是には何《なん》と書いてございますか、此の次に申し上げます。
二十一
ちと模様違いの怪談話を筆記致しまする事になりまして、怪談話には取わけ小相《こあい》さんがよかろうと云うのでございますが、傍聴筆記でも、怪談のお話は早く致しますと大きに不都合でもあり、又怪談はネンバリ/\と、静かにお話をすると、却《かえ》って怖いものでございますが、話を早く致しますと、怖みを消すと云う事を仰しゃる方がございます。処が私《わたくし》は至って不弁で、ネト/\話を致す所から、怪談話がよかろうと云う社中のお思い付でございます。只今では大抵の事は神経病と云ってしまって少しも怪しい事はござりません。明《あきら》かな世の中でございま
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