きに御苦労様で、実は新吉は、私に拠《よんどころ》ない用事があって、此方《こちら》へ参って居る留守中に師匠が亡なりまして、皆さん方が態々《わざ/\》知らして下すって有難うございます、生憎《あいにく》死目《しにめ》に逢いませんで、貴方がたも誠にお困《こまり》でございましょう、実に新吉も残惜《のこりお》しく思います、何《いず》れ只今私も新吉と同道で参りますから、ヘエ有難う、誠に御苦労様で」
 長屋の者「左様で、じゃアお早くお出《い》でなすって」
 勘「只今私が連れて参ります、誠に御苦労様、馬鹿」
 新「其様《そんな》に叱っちゃアいけません、怖い中で叱られて堪《たま》るものか」
 勘「己《おれ》だって怖いや、若衆大きに御苦労だったが、待賃《まちちん》は上げるがもう宜しいから帰っておくんなさい」
 駕籠屋「ヘエ、何方《どなた》かお乗りなすったが、駕籠は何処《どこ》へ参ります」
 勘「駕籠はもう宜しいからお帰りよ」
 駕「でも何方かお女中が一人お召しなすったが」
 勘「エヽナニ乗ったと見せてそれで乗らぬのだ、種々《いろ/\》訳があるから帰っておくれ」
 駕「左様でげすか、ナ、オイ駕籠はもう宜《い》いと仰しゃるぜ」
 駕「いゝったって今明けてお這入んなすった様だった、女中がネ、然《そ》うでないのですか、何《なん》だか訝《おか》しいな、じゃア行《ゆ》こうよ」
 と駕籠を上げに掛ると、
 駕「若《も》し/\、お女中が中に這入って居るに違いございません、駕籠が重うございますから」
 新「エヽ、南無阿弥陀仏/\」
 勘「オイ駕籠屋さん、戸を明けて見な」
 駕「左様《そう》でげすか、オヤ/\/\成程居ない、気の故《せえ》で重《おも》てえと思ったと見える、成程|何方《どなた》も入らっしゃいません、左様《さよう》なら」
 勘「これ新吉、表を締めなよ手前《てめえ》のお蔭で本当に此の年になって初めて斯《こ》んな怖い目に遇《あ》った、家《うち》は閉めて行《ゆ》くから一緒に行《い》きな」
 新「伯父さん/\」
 勘「何《なん》だよ、いやに続けて呼ぶな、跡の始末を附けなければならねえ」
 と云うので是から家《うち》の戸締りをして弓張を点《つ》けて隣へ頼んで置いて大門町から出かけて行《ゆ》きます。新吉は小さくなって慄《ふる》えながら仕方なしに提灯を持って行《ゆ》く、
 勘「さア新吉、然《そ》う後《あと》へ
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