さんも皆《みんな》来て、何《ど》う斯《こ》うと云った処が何うしても仕ようがねえ、新吉さん、お前《めえ》が肝腎の当人だから漸《ようや》く捜して来たんだが、あのくらいな大病人《たいびょうにん》を置いて出歩いちゃアいけませんぜ」
 新「ウー、ナン、伯父さん/\」
 勘「何《なん》だよお前《めえ》、御挨拶もしねえで、お茶でも上げな」
 新「お茶どころじゃアねえ、師匠が死んだって長屋の善六さんが知らせに来てくれたんだ」
 勘「何を馬鹿な事を云うのだ、師匠は来て居るじゃアねえか」
 新「あのね、御冗談仰しゃっちゃアいけません、師匠は先刻《さっき》から此方《こっち》へ来て居て、是から私が送って帰ろうとする処、何《なん》の間違いでげしょう」
 善「冗談を云っちゃアいけません」
 彦「是は何《なん》だぜ、善六さんの前だが、師匠が新吉さんの跡を慕って来たかも知れないよ、南無阿弥陀仏/\」
 新「そんな念仏などを云っちゃアいけないやねえ」
 善「じゃアね新吉さん、彦六さんの云う通りお前《めえ》の跡を慕って師匠が来たかも知れねえ」
 新「伯父さん/\」
 勘「うるさいな、ナニ稀代《きたい》だって、師匠は来てえるに違《ちげ》えねえ、今連れて行くんじゃアねえか」
 と云いながらも、なんだか訝《おか》しいと思うから裏へ廻って、
 勘「若衆《わかいしゅ》少し待っておくんなさい」
 新「長屋の彦六さんがからかうのだから」
 勘「師匠/\」
 新「伯父さん/\」
 勘「えゝよく呼ぶな、何《なん》だえ」
 新「若衆少し待っておくれ、師匠/\」
 と云いながら駕籠の引戸を明けて見ると、今乗ったばかりの豊志賀の姿が見えないので、新吉はゾッと肩から水を掛けられる様な心持で、ブル/\慄《ふる》えながら引戸をバタリと立てゝ台所へ這上《はいあが》りました。
 勘「何《な》んて真似をして居るのだ、ぐず/\して何《なん》だ」
 新「伯父さん、駕籠の中に師匠は居ないよ」
 勘「エヽ居ねえか本当か」
 新「今明けて見たら居ねえ、南無阿弥陀仏/\」
 勘「厭《いや》だな、本当に涙をこぼして師匠が己《おれ》に頼んだが、お前《めえ》が家《うち》を出なければ斯《こ》んな事にはならねえ、お前《めえ》が出て歩くから斯んな事に、オイ表に人が待って居るじゃアねいか己《お》れが出よう」
 と云うので店へ出て参りまして、
 勘「お長屋の衆、大
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