《あんい》致した……人が来やしないか」
徳「いや田圃の中で此の大雨、来る人はございやせん」
庄「向うに見える灯火《あかり》は」
徳「ありゃおまはん藪蕎麦だよ」
庄「おゝあれが藪蕎麦か……向うに見えるは」
と徳藏に向うへ眼を付けさせて、見ると懐から抜出した合口を把《と》って、力にまかせぶつうりと突いたからばたりと前にのめりました。この騒ぎを少しも知らないのはお美代です。婢《おんな》は元数寄屋町の有松屋に奉公していたのを、お美代が旦那を持ってから自分の手許《てもと》に呼んで、昔話をするのを楽《たのし》みに致して居ります。
美「今帰ったよ」
婢「おやお帰んなさい」
美「お前後生だから折《おり》が二つあるから、お皿を三つばかり持って来て……くッついていけないから……それは栗の金団《きんとん》だよ、お前は甘い物が嗜《す》きだから是を上げるよ」
婢「これは私は最う何より旨いと思って居りますよ、それとね姐《ねえ》さんお座敷の時のねえ、あれは何でしたっけね、あの斯うしてそら斯うして丸くって、それ付合《つけあわ》せのお肴でございますよ」
美「おゝそう/\、むつの子がお前は嗜きだったね、お前に持って来た
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