ればならんから」
婆「然《そ》うでございますか、それじゃアはるや、大急ぎで車を誂《あつら》えなよ、仕立は高いから四つ角へ往って綺麗そうな車を見つけて来な、幌《ほろ》の漏らないようなのを、大急ぎで早く往って来な」
下女「はい/\」
と下女が有松屋と云うぶら提灯を提《さ》げて人力を雇いに往《い》きますと、向うからがた/\帰り車と見えて引いて参るを見付け、
下「ちょいと車屋さん/\」
車夫「へい」
下女「あの神田の美土代町まで幾許《いくら》だえ」
車夫「へい一朱と二百で」
下女「高いよ、そんな事を云ったッて余《あん》まり高いよ」
車夫「高いたって降って来ましたから」
下女「降って来たって、お負けよ、一朱ぐらいに」
車夫「ヘエ何うでも宜うございます」
とフランケットを身体に巻附け、ずぶ濡になっている車夫が、下女の後からびしょ/\附いてまいる所を、藤川庄三郎は丁字風呂《ちょうじぶろ》の蔭に隠れていたは、愚痴な女に男の未練で、腹立紛れに美代吉を打《ぶ》ん殴って出たが、まだ腹が癒えず、何うも身請をされては男の一|分《ぶん》が立たんと、旧《もと》の士族さんの心が出ましたから、小蔭に隠れて様子を立聞
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