「何処へ往ったんだろう」
と呼んでも音も沙汰も無い。はて変だ。と思って二畳の処を開けに掛ると、栓張《しんばり》が支《か》ってあって唐紙《からかみ》が明きません。
美「旦那」
と、揺《ゆすぶ》るとたんにがらりと転げた音がする。飛び込んで見ると藤川庄三郎は何時《いつ》の間にか合口を取って、立派に腹一文字に掻切って死んで居りました。恟《びっく》りしたのはお美代。
美「さア皆《みん》な起きてお出でなさい、良人《うちのひと》が腹を切りました」
というから店の者も出てまいった。店もまだ開けない中《うち》でございますが、目の見えないおふみまでも来て子供も死骸に取り縋《すが》って泣き出しまする。すると傍《かたわら》の硯箱《すゞりばこ》の上に書残した一封が有ります。これを開いて見ると、
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書遺《かきのこ》し候我等|一昨年《いっさくねん》九月四日の夜《よ》奧州屋新助殿をお久《ひさ》の実の兄と知らず身請[#「身請」は底本では「見請」]されては一分立たずと若気の至りにて妻恋坂下に待受《まちうけ》して新助殿を殺害《せつがい》致し候其の時新助殿始めて松山の次男なる事を打明《うちあか》し
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