方でなければ只今、お楽になって入らっしゃるものはございません。大臣参議と雖《いえど》も皆戦争の巷《ちまた》をくゞり抜け、大砲の弾丸《たま》にも運好《うんよ》く中《あた》らず、今では堂々たる御方《おんかた》にお成り遊ばして入らっしゃるのでございますがまだ開《ひら》けません時分、亜米利加《アメリカ》という処は何《ど》ういう処か、仏蘭西《フランス》はどんな国だか分らない中《うち》に洋行をなさいまして、然《そ》うしてまた何うも船の機械も只今ほど宜《よ》く分っても居りませんでしたのに、危険を凌《しの》ぎ、風波《ふうは》を冒《おか》して大洋を渡りなど遊ばして苦心をなすったから、只今では仮令《たとい》お役所へお出で遊ばさないでも、年金を沢山お取り遊ばすというのも、その苦労をなさいましたお徳でございます、だから余り楽をしようと思うと、却《かえ》って是が苦しみになりますことで、私《わたくし》などは毎日喋って居りますから、ちと楽を為《し》ようと思って、一日喋らずに居たら何うだろうというと、これが苦労の初まりで、一日黙って居るくらい苦しみはありません。何もそんなに黙って居るにも及びませんが、退屈でなりません
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