銭に贈物《おくりもの》が二円も掛る、大した散財に成るんだもの、それは又僕が何うにも致しやす、何うにか成りますよ、気を落しちゃアいけません、嬢ちゃん何うも温順《おとな》しくお成んなすったが、何うもお加減が悪うございますか、大層お痩せなすって」
ふみ「なにあなたね、続いて二日ぐらい食べぬ事が有りまして、又食べさして又たたた食べ……(泣沈む)何うもがゞ餓鬼道のようでございますから瘠《や》せます訳でございます」
豐「お母《っか》ちゃん、お飯《まんま》が食べちゃいなア」
三「おゝ/\上げます/\………婆さんお膳立をしてくんな、な何を、お飯を何うしたと、冷《ひや》ではいけません温《あった》かいのを、お雛《ひな》さん処《とこ》へ往って借りて来な、何か無いか家《うち》に、何を何処かに往って鳥鍋かよせ鍋でも何でも熱い物でさいあれば………なにを雪が降ってる、雪だってお前春の雪、そんなに寒い事はない………さゝ御飯《おまんま》を」
 これから親子の者にお飯を食べさせたので、大きに温《あった》まりがついた。
三「もし男の胴着や何かは女には着悪《きにく》いが、家《うち》には独身者《ひとりもの》ですから、女が居《い》るには居《お》りますが女の部には這入《はいら》ねえで、女の大博士に成っちまって、羽が生えて飛びそうな雇婆《やといばゝあ》です、えいまアお前さんは少し此家《こゝ》にお待ちなさい、集めて見ましょう、いけないと云ったらお前さんも御一緒にお出でなさるよう、先方《むこう》だって人情ですから出しましょう」
 と是から三八は先ず彼方此方《そちらこちら》を頼み散《ちら》かして歩くと、立引《たてひき》にア見得張《みえば》る商売ですから、あの人が幾許《いくら》出したから、まアわたしも幾許出そうと云うので、多分にお金が集って来ました。
三「もし御新造さん旦那が善《い》い方で物を遣って有るから、旦那の愛敬で何うもお気の毒だ、私《わちき》にも出さしてくれと云って呉れます、若い芸者衆やなんども、呼ばれた事は無くてもお名を聞いたばかりで出すから、三八出さしておくんなさいと、これが旦那の徳と云うものは恐ろしいもんで、何うも大したもので、是から柳橋と新橋と吉原へまいりましょう」
ふみ「はい/\何ともまア………それもあなた様の御親切で」
三「此の他には全《まる》で方なしの処《とこ》には往《い》かれませんが、あゝ善《よ》い事が有りますぜ、旦那が一番贔屓にしてくれた人という者は何で美代吉さんです、是が運の善い人で、自分が惚《ほれ》た男に請出されて、蠣殻町に居たのだが、越して新らしく此の頃建った家を借りて、それが今|御徒町《おかちまち》一丁目の十六番地へ葉茶屋を出しました、松山園《まつやまえん》とかいう暖簾《のれん》を出して、亭主《おやだま》の方が坊ちゃん育ちの善い人だから、それに美代ちゃんは旦那に御贔屓になったんですから………分らねえ奴は有松屋の婆《ばゞア》さ、何だかぐず/\云いやがって、否《いや》なら止《よ》しやアがれとも云わないが………それとちがい是は大丈夫だ、先方《むこう》が大きいから二十円や三十円は出してくれるかも知れないが、まアあなたを連れてって見せなくてはいけない」
ふみ「何ともお礼の申し上げ様もございません」
三「何う致しまして、何《なん》にしろ跣足《はだし》じゃア往《い》けません、何に仕ましょうか、車をそう云ってお呉れ、此の嬢ちゃんと合乗《あいのり》に乗って三人に成ります、それ故に三人乗ってそろ/\挽《ひ》いて、僕は贅《むだ》だからぼつ/\下駄を穿《は》いて歩いて往く方が便利だ」
 と親切な男で、車を拵えて、余り遠くも有りません御徒町松山園に参り、台所から、
三「へい今日《こんち》は、夜分|晩《おそ》く出まして、相済みません」
婢「はい入らっしゃい何方様《どちらさま》」
三「えい御叮嚀《ごていねい》では困ります、数寄屋町の三八で」
婢「勘八《かんぱち》さんと仰しゃりますか」
三「勘八ではございません、三八ですとそう仰しゃって下さいまし」
婢「はい、あの何です数寄屋町の雁八《がんぱち》さんという方が入らっしゃいました」
三「何うでも間違ってやがらア」
美「そう、おやまア何だね、表から這入れば宜《い》いのに」
三「いえお店の方から這入って茶の壺を引倒した事がございますから……誠に御無沙汰致しました」
美「もし此方《こっち》へお上んなさいな」
三「お取膳《とりぜん》で、八寸を四寸ずつ喰う仲の善さ、という川柳があります」
美「何をえ」
三「何でも始めは穢《きたな》い物を連れて来たが、段々綺麗なお話に成るので……旦那誠に御無沙汰を」
庄「おや、さ、此方《こちら》へお這入んなさい」
 膳を片附けそうにするを無理に止めます。庄三郎は織色《おりいろ》の羽織を著《き》まして、二子《ふた
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