や私こそ御無沙汰致しました、お母さん、少し御相談が有って来たんだがねえ、些《ちっ》と申し難《にく》い訳だから、一寸どんな小部屋でも有りア」
婆「御存じの通《とおり》の私《わちき》のとこは小部屋も何も有りませんが、何の御用でございますか、何うか此処で仰っしゃってねヘヽヽ何うも下さいませんと困りますねえ」
庄「実はお前も知ってる通り、知って知らんふりでお出でだろうけれども、実は僕ア道楽てえものは今迄仕た事はねえが、下谷へ来てから誘われて一度遊んだのが病付《やみつき》で、其の後《ご》はお前さん処《とこ》の美代吉さんと私は隠れて遊んだ事もある、お前がそれが為に腹を立って私を寄せ付けんという事も知っています」
婆「そう改まって仰しゃっちゃア困りますねえ、何も寄付けねえ訳は有りませんけれども、お前さんも亦、私は遊びましたよ、はい御存じでござりましょうが、お前さん所《とこ》の美代吉と隠れて遊んだと仰しゃられちゃ困ります、実はお前さんと美代吉が遊びたいばかりで、それまでは堅い妓《こ》でございましたけれども、お前さんに誘い出されて向島《うわて》くんだりへ往ってさ、二晩や三晩|家《うち》を明けた事も有ります、それも宜《よ》いけど、あんな人の好《よ》い奴《こ》だからお前さんと遊ぶにも、お前さんだって有り余る身代じゃアなし、身上《みあが》りをしたり、聞けば他で以て高利を借りて、それも是れもまア稼人《かせぎにん》のこったから私は何にも云いませんけれども、考えて御覧なさい、私は玉《ぎょく》をいくら取り損《そこな》ったか知れやしない、それもまア私は何とも云いはしないが、お前さんにそう改まって御存じだろうと仰しゃられちゃア、私も困りますよ、はい随分困ります、……知らない振で居ましたが、何うぞ是からは遊んで下さらないように願いたいねえ」
庄「だからお前に苦労させて済みませんから、何うか多分の事じゃア出来ないけれども、母にも打明けて話し、親戚の者にも話したが、美代吉はお前の娘という訳でもなし、云わば抱えで流れ込んで居るという事を知って居るが、此の藤川に身請をさせて貰いたいんだ多分の金円《きんえん》を出せと云っては出来ませんが、何うか身請の処《とこ》を御承諾を願いたい」
婆「へえゝ、大層お立派な事を仰しゃいますね、それは藤川さんお前さんも惚れている女ですもの、身請をしてお前さんの家《うち》へ女房にして置
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