黄八丈の下着に茶献上の帯に黒羽二重の羽織で、至極まじめのこしらえでございまして、障子戸の外から、
庄「御免……美代ちゃん宅《うち》かえ」
婆「はいお兼《かね》や、誰か来たから鳥渡《ちょっと》往って見な…表へ誰方《どなた》かお出でなすったよ」
兼「はい」
女中が駈け出して障子をがらりと開けると庄三郎。
兼「おや入っしゃい」
庄「まことに御無沙汰(挨拶をしながら)美代ちゃんは」
兼「今|何《なん》でございます、一寸《ちょっと》お約束で出ました」
庄「お母さんは」
兼「お母さんは居りますからまアお上り遊ばせ」
庄「はい御免なさい」
婆「おい一寸兼や、何だよ、気の利かない女《こ》だよ、藤川さんだよ、無闇に上げちゃアいけねえなア………この節は何うもいけない、余程《よっぽど》いけねえ、様子の悪い、それを無闇に上げてさ、居ないと云えば宜《い》いに何だね………最う上ってお出でなすったアね……さア(急に笑い顔)此方《こっち》へお出でなさい」
庄「お母《っかあ》まことに御無沙汰、一寸来なくちゃアならんのだけれども、駿府の方から親戚の者が出て来て居るもんだに依《よ》ってな何や彼《か》やと取紛《とりまぎ》れて、何うか僕も親族の者が、遊んで居てもいけないからと云うので、今度商法をね……当節は兎角商法|流行《ばやり》で、遠州の方から葉茶《はぢゃ》を送ってくれると云うので、蠣殻町《かきがらちょう》に空家《あきや》が有ったもんだから、それを借りて漸《ようや》く葉茶屋を開店することに極りがやっとついたんで、お馴染には成ってるしするから、悪い耳と違って善《よ》い事をお聞《きか》せ申したいと思ってね………参ったが、何時もお変りございませんで、次第に月迫《げっぱく》に」
婆「まことに押詰りましてさぞお忙がしゅう……おゝそれは結構でございますねえ、大分《だいぶ》皆さんが御商法をなさいますが、仰しゃるお茶屋だの料理屋しるこ屋色々な事をしても、素人で真似をしたのは何うも長持のないもんですね、慣れない事てえものはいけませんよ、士族さん方の御商法は何うも外れ易いものでございますから、貴方も一生懸命にねえ……まア御勉強なすってお遣んなさりア宜しゅうございましょう、生憎《あいにく》美代吉は居りませんで」
三八「これは何うも暫く………先達《せんだっ》ては失敬をいたしました、今という只今貴方のお噂たら/\ヘヽヽ」
庄「い
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