押掛《おしかけ》のお座敷に往っても御祝儀は下さいませんから誠に困りますよ、お歳暮《せいぼ》の時なんぞは御祝儀処か、おやお出でかえ誠に取込んで居るからと云うんで、無しさ、幇間《たいこもち》なんどは暮はいけませんなア、来春《くるはる》を待つのですが、お母さんなんぞは土用が来ても歳暮が来ても福々しいね」
婆「何うして大違《おおちがい》さ、それに彼《あ》の奧州屋の旦那がね、ソレあの時お前も落合って身請ってえから少し苦しい処だから丁度|好《い》い塩梅だと極りがついて、明後日《あさって》は身請というから当《あて》にして、私もその支度もし、別に抱えも仕たいと思うからそれに当箝《あては》め、借金も返す約束に成っている処が、ぽかりと外れてしまった実に困ったのサ、だがね何うしてあの方があんな死様《しによう》を為すったろう」
三「解らないよ、泥濘《ぬかるみ》へ踏込んでも、どっこい悪い処へ来たと後《あと》へ身体を引いて、一方《かた/\》の足は汚さねえと云う方だが」
婆「それが何うも腹を切るなんてえのは」
三「なに矢張《やっぱ》り洋物屋《とうぶつや》の旦那様でも、元が士族|様《さん》の果《はて》で、何かで行詰った事が有って、義理堅い方だから義が立《たゝ》ないとか何《なん》とか云う所からプイと遣ったか、それとも人にねえお前さん好《い》い年をして芸者の身請を致して、女房子の有る身分《からだ》で了簡方《りょうけんがた》が違おうとか何とか野暮な小言を云った奴が有って、色に溺れるのじゃアない、美代吉の身請を致して、好《よ》い亭主を持たせるのだと言っても聞かないで、悪い喧嘩でもしてそう思われたが口惜しいとか何《なん》かでプイと腹ア切る気になったのかも知れない、それとも腹ア切るのは容易の事じゃア無《ね》え、善々《よく/\》思切《おもいき》ったのであろう、それとも無理な才覚をなすって美土代町のお宅でも悪借金《わるじゃっきん》………でもありゃアしないかと思われますねえ」
婆「是が為に外れて私《わちき》は誠に困って居るが、美代吉は身請が外れて嬉しいと云うような顔をしているのが腹が立ちますわね、此の頃美代吉は外れてから元気が出たよ、あゝいう分らない阿魔っちょだから実に私は途方にくれるんだよ、この暮は本当に困りますよ」
 と噂をして居るところへ藤川庄三郎門口へ立ちました。装《なり》は南部の藍万《あいまん》の小袖に、
前へ 次へ
全57ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング