いのかとんと分りませんが、先達《せんだっ》て博識《ものしり》の方に聞いたら、前を剃りましたのは首実検の為に剃ったので、大将へ首実検いたさするに指を髻《もとゞり》に三本入れた時に(右の手にて攫む)斯《こ》う髻を取って大将の前に備える時に死顔《しにがお》が柔かに見える、前が剃って有ると又|髻《たぶさ》を掴《つか》むにも掴み易いと云うので、前髪《まえ》を剃上げて見せたということだから、以前《せん》の頭は余《あんま》り縁起の好《よ》い頭じゃアございません、首実検のための[#「ための」は底本では「ため」]頭だと云います、それから追々剃りまして糸鬢奴《いとびんやっこ》が出来ましたが、清元本多《きよもとほんだ》と申して幇間《たいこもち》やなんかは石垣に蜻蛉《とんぼ》の止ったような頭に結いましたもの、只今では散髪《ざんぎり》に成ったから、風《ふう》の変え様が有りませんが、此方《こちら》(右)に曲《まげ》るとか、或《あるい》は左の方に撫付けたが宜かろう、中央《まんなか》から取って矮鶏《ちゃぼ》の尾《おしり》の様な形《なり》に致して粋《すい》だという、團十郎刈《だんじゅうろうがり》が宜《よ》いとか五分刈《ごぶがり》が彼《あれ》が宜しいと、粋《いき》な様だが團十郎が致したから團十郎刈と云うと、大層名が善《よ》いが、よく/\見れば毬栗《いがぐり》坊主だから悪く云ったら仕方の無いもんだが、あれが流行《はやり》と成ると粋に見えます。今では前の方にばらりッと下《さが》ったのが流行ります、あれはまア乱れて下ったのかと思うと結髪床《かみいどこ》での誂《あつら》えです、西洋床の親方なんぞは最《も》う心得て居りますから、先方《むこう》から、
床「どの位に………」
客「前の方に五十六本」
なんて申したって分りません、仮令《たとえ》長く下げまして、末には目の上にまで被《かぶ》さって、向うが見えないように成って、向うから人が来て、
甲「今日《こんち》は」
乙「へい(髪を両手にて掻上げ右左と顧《かえりみ》る)え、何方《どなた》です」
なんてえ訳で、両方の手で分けて見たり何《なん》かするのは可笑《おか》しゅうございますが、其の頃は散髪《ざんぎり》に成っても洋服を召しても、未だ懐中《ふところ》には煙管筒《きせるづゝ》の様にして、合口の短刀を一本ずつ呑んで居《お》ったもの、されば徳川の禄を食《は》んだ藤川庄三郎、
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