作も無い事でございましたが、今では身請というと実に方々《ほう/″\》さまの相場が大変な事で……」
三「ほうらそろ/\始まった、これだからうっかりした事は云われない……お母さん然う前置から詞《ことば》を振《ふら》ずに前文無しで結著《けっちゃく》の所を云って下さらなくっちゃア困りやすで……旦那あなたの思召《おぼしめし》は」
と袂《たもと》の中へ手を入れて、指を握り合って相談をする。
三「えゝ、成程……お母さんちょいと手を私の袂の中へ突込《つっこ》んで下さい、これが流行物《はやりもの》だから何うでげしょう、このくらいでは」
婆「はい……誠に有難い事でございますけれども、お師匠さん、私どもは外に宜《い》い抱えも無いのでございます、今美代吉が出てしまえば、何《いず》れ誰か外《ほか》に宜《よ》い抱えを為《し》なければなりませんが、そんならばと云って出たから直《すぐ》にお客が附くという訳でもなし為《し》ますから、それでも何うも少し話が折合いませんねえ」
新「じゃアお母さん何うぞ五百円ぐらいの所で話を極めておくんなさいな」
三「お母さん、そんなら宜うございましょう、こんな相場は有りませんから」
婆「誠に何うも有難い事でございます」
新「僕も少し頼まれた事が有ってその実は横浜まで買物に往《ゆ》かなければならんから、それでは明後日《あさって》という事に極めましょう、何が無くとも赤の御飯ぐらい炊いて、目出度い事だから平常《ふだん》馴染《なじみ》の芸妓|衆《しゅ》でも招《よ》んでね」
婆「誠に何うも有難い事で、然《そ》んなれば是非明後日はお待ち申します……美代吉や、ほんとに御親切なんて、何うもこんな有難い事は有《あり》ゃアしないよ……お間違い有りますまいね」
新「間違える所《どこ》じゃない、お母さんの方でさい違わなけりゃア、此方《こっち》で約を違《たが》える気遣いは無いのだから」
婆「実に何うも有難い事で、左様なら明後日は何時頃《なんじごろ》に入らっしゃいます」
新「二時少し廻った時分迄には屹度来るから、其の積りで約定《やくじょう》を極めてさえ置けば宜《い》いのだ」
三「美代ちゃん大変に宜《よ》い事が有るんで」
と幾ら傍《そば》で云っても美代吉は少しも嬉しい顔付が無いというは、本所北割下水《ほんじょきたわりげすい》に旗下《はたもと》の三男で、藤川庄三郎《ふじかわしょうざぶろう》という者
前へ
次へ
全57ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング