三「ときにお母さん、外《ほか》じゃ有りませんが、今旦那がね、美代ちゃんのお父さんと心安くして、むかし御恩になった事もあるてえので、美代ちゃんを身請して松山とか久馬様とかいう暖簾を掛けさせ度《た》いッてんで、何も色に惚れて権妻にするてえような訳では無いので、親類交際の身請てえのでげすが、これは私も思うのにお前の為になると考えます、あの方の事だから身請を為《し》ッ放《ぱな》してえ訳じゃア無いのだからお前も思い切ってお仕舞いなさい、併《しか》し盛りの娘を手放すってえのだから無理だが、後《あと》の為を考えるとね、実は私もちょいと旦那と打合わした処も有るから、思い切って美代ちゃんを手放して下さいな、娘が出世すると思えば否《いや》という訳は有りやすめえ」
婆「まことにどうも有難うございますね……旦那ア本当でございますか……、何だか三八さんは時々おかしな事を言出しますが」
新「実は今師匠にも話したんだが、あんまり贅沢のようでお母さんきまりが悪いが、初めて会った時から何《な》んとなく美代ちゃんが可愛くって仕様が無いから云出したのだが、併し話をするのは今日が初《はじめ》てゞ、何うかしてお父さんのお位牌でも立てさせたいと思い、また私《わし》は別に兄弟も何もないから、此の娘を請出して私《わたし》の妹分《いもとぶん》に為《し》たいというは、此の娘の様な真実者なら、私《わし》の死水《しにみず》も取ってくれようとこういう考えなんだが、親類交際で身請を為てしまったからッて、何も是《これ》ッ切《きり》お前の処へ来ないという訳でも無く盆暮には屹度《きっと》顔を出させるようにします、差支《さしつかえ》は有りますまいが、また斯《こ》ういう雛妓《こども》を抱え度《た》いとか、あゝいう出物《でもの》の著物《きもの》が有るから買いたいと云う様な時にも、お前さんの事だから差支も有るまいが、然《そ》ういう時には金円《きんえん》…また私《わたし》が御相談をしても善いのだがねえ」
三「旦那が只何うも美代ちゃんが可愛くって、娘か妹のように思われて、丸めて喰ッちまい度《た》い位なんで」
婆「誠に何うもそれは有難い事でございます、実に彼《あれ》の身の出世でございます、彼も何時までも芸妓をして居ては詰りませんから、能《よ》い加減な時分に何うか身を固めさせなければならないと申して居たのでございますが、昔は芸妓を受出すにも造
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