と深くなって居ますが、遣い過ぎて金が廻らなくなったので、有松屋へ行っても不挨拶《ぶあいさつ》をするゆえ来にくゝなり、何うも都合が悪いと見えて、茶屋小屋から口を掛ける事もなし、此の頃では打絶《うちた》えて逢いませんので、美代吉も気を揉んで居る処へ身請の話になり、胸が痛く、
「はい」
 と忌《いや》アな返事をしました。所へ来ましたのは藤川庄三郎で、此の頃では深川六間堀《ふかがわろっけんぼり》へ蟄息《ちっそく》致して居ましたが、駿府《すんぷ》から親族の者が出て来まして、金策が出来、商法の目的を附け、何《ど》んな所へでも開店|為《し》ようという事に成りましたので、美代吉に悦ばせる心算《つもり》ゆえ大《おお》めかしで、其の頃|散髪《ざんぎり》になりましたのは少なく、明治五年頃から大して散髪《ざんぱつ》が出来ましたが、それでも朝臣《ちょうしん》した者は早く頭髪《あたま》を勧められて散髪《ざんぎり》に成立《なりたて》でございますが、また散髪に成って見ますると、この撫付けた姿を見せたいと、惚れている女には尚変った所が見せたく、黒の羽織に白縮緬《しろちりめん》の兵児帯《へこおび》で格子の外へ立ち、家《うち》の中を覗《のぞ》きながら小声にて、
庄「美代ちゃん宅《うち》かえ」
 と声を掛けると、美代吉は庄三郎の事ばかり思っています処へ、想う男に声を掛けられ、飛立つばかりいそ/\しながら、
美「あい」
 と立上るを引き止め、
婆「何だよ、お止しよ、お前お客様が来て入らっしゃる処で、藤川さんだろう、止しなよ、お客様が入らっしゃるから余計な事を云いなさんなよ、出なくっても宜《い》いんだアね」
新「お母さん宜《い》いじゃアないか、前に贔屓で呼んでくれたお客なれば、今美代ちゃんを請出せば私《わし》の妹分にも為《し》ようと思っている、その妹を贔屓にしてくれたお客なら私もお近付になりたいから、お上げ申した方が宜《よ》い」
 美代吉は逢いたいと思う処へこう云われたから、
美「はい」
 と直《すぐ》に二畳の上《あが》り口へ出て来まして、障子を開けるとて格子の外に立って居まする庄三郎を見て、莞爾《にっこ》と笑いながら、
美「おや宜くおいでなさいました」
庄「今日はね、少しお前に悦ばせようと思って来ました。」
美「余《あん》まりおいでなさらんから何うなすったかと思ってましたよ」
庄「なにね深川の方の知己《ちき
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