前《もと》はお武家《さむらい》で、剣術《やっとう》の先生だから、処がモウ年を取ってお在《いで》なさるから、忍耐《がまん》をして今朝己を呼びによこしたんだが、何うしたッて己が何《なん》とも言訳がねえじゃアねえか」
 伊「マヽ行ったと仰しゃるなら行ったにもなりましょうが、昨夜は何うしても行けませぬ、其の証人は貴方です」
 勝「己が……何ういう」
 伊「何うだッて、日暮方から来て、川長《かわちょう》へでも行ってお飯《まんま》を喰いに一緒に行《ゆ》けと仰しゃるから、お供をしてお飯を戴き、あれから腕車《くるま》を雇ってガラ/\/\と仲へ行って、山口巴《やまぐちどもえ》のお鹽《しお》の許《とこ》へ上《あが》って、大層お浮れなすって、伊之や/\と仰しゃって少しもお前さんの側を離れず夜通し居た私が、何うして根岸まで行《ゆ》ける訳がないじゃアありませぬか」
 勝「ウム、違《ちげ》えねえ、側に居たなア、何を云やアがるんで、耄碌《もうろく》ウしてえるんだ、あん畜生《ちきしょう》、ま師匠腹を立《たっ》ちゃア往《い》けねえヨ、己[#「己」は底本では「已」と誤記]は遂《つ》い慌《あわ》てるもんだから凹《へこ》まさ
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