れたんだ、己がお前《めえ》に渡す金を取って使ったろうと吐《ぬか》しやアがった、ヘン、憚《はゞか》りながら己だッて五百両や六百両、他人《ひと》の金子《かね》を預かることもあるが、三文だッて手を着けたことはありゃアしねえ、其様《そん》な事は大嫌《でえきれ》えな人間なんだ、ちょいと行って来らア、少し待って居ねえ」
 また腕車《くるま》を急がせて根岸のはずれまで引返《ひっかえ》して来た。
 勝「ヘイ唯今」
 主人「イヤ、大きに御苦労、何うだ伊之助は居たか」
 勝「エヽ先生は昨夜《ゆうべ》伊之が此方《こちら》へ来たと仰しゃいますが、昨夜じゃアありますめえ」
 主人「ナニ、昨夜|確《たしか》に見たから、今朝貴様の許《とこ》へ人をやったんだ」
 勝「ヘエー、昨夜なら何うしても来る訳がねえので」
 主人「何故《なぜ》」
 勝「何故ったッて、何うも誠に先生の前《めえ》では、些《ちっ》ときまりの悪い話でげすが、実は彼奴《あいつ》を連れて吉原《なか》へ遊びに行ったんでげすから、何うしても此方《こちら》へ来る筈がごぜえませんので」
 主人「ウム、それなれば何故、最初己が尋ねた時に爾《そ》う云わぬのじゃ」
 勝
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