、在宅《うち》か」
 伊「おや、さお這入んなさい」
 勝「冗談じゃアねえぜ、生空《なまぞら》ア使って、悠々とお前《めえ》此処《こゝ》に坐って居られる義理か」
 伊「え、何《なん》で」
 勝「何《なに》もねえ、え、おい、本当に己はお前《めえ》のために、何様《どんな》にか面皮《めんぴ》を欠いたか知れやアしねえ、折角己が親切に世話アしてやった結構なお店《たな》を、お嬢さんゆえにしくじって仕まい、其の時お内儀さんが此金《これ》をと云って下すったから、ソックリお前の許《とこ》へ持《もっ》て来てやったら、お前が気の毒がって、以来はモウ横山町の横と云う字にも足は踏かけめえと云って、書付まで出して置きながら、何《なん》で根岸くんだりまで出かけて行《ゆ》くんだよ」
 伊「え、誰がお嬢さんに逢ったんです」
 勝「とぼけるなイ、お前《めえ》が行ったんじゃアねえか」
 伊「まアあなた、そう腹立紛れに、人の言う事ばかり聴いてお出《いで》なすっちゃア困りますナ、まア行ったなら行ったになりましょうが……」
 勝「昨夜《ゆうべ》お前《めえ》は、既《すんで》に捕捉《とっつかま》って、ポカリとやられちまう処だッたんだ、以
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