芝居などでもよく演《や》るやつでございますが、先《ま》ず初めにお姫さまが金魚の糞《うんこ》ほどぞろ/\腰元をつれ、花道で並び台詞《ぜりふ》がすみ、正面の床かあるは引廻したる幔幕《まんまく》のうちへ這入る、そうすると色奴《いろやっこ》とか申してな、下司《げす》下郎の分際《ぶんざい》で金糸《きんし》の縫いあるぴか/\した衣装で、お供に後《おく》れたという見得で出てまいります、舞台《ぶだい》へ来ても最《も》うお姫様もお供の影もないのでまご/\しているを好《いゝ》寸法に出来てるもので、お姫様が其処《そこ》へたった一人で出懸けてまいり、これ何平とやら雨の降るほどやる文を返事もしないは情《つれ》ないぞや、四辺《あたり》に幸い人はなし、今日こそ色よい返事をなんかんッて……あつかましくもジッと下郎の側へ寄り添い、振袖を肩のところへかけるを合図に、下郎は飛びのき不義はお家の御法度《ごはっと》、とシラ/″\しく言えば、女の身で恥かしいこと言い出して殿御に嫌われては最うこれまで、と懐剣ひきぬき自害の模様になるを、下郎は恟《びっく》りして止めると、そんなら私《わらわ》の望み叶えてたもるか、さアそれは……叶わぬ
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