之さん何うしたんだ」
 と今にも掴《つか》みかゝらんとする権幕でげすから、お若さんも恟《びっく》り、黙っていられません。
 若「鳶頭《かしら》、そんなにお云いでないよ、伊之さんが悪いんじゃないから、これというも皆《みん》な私の心からで無理に伊之さんを呼びこんだのだよ、何うした因果か知らないが、何うも伊之さんのことばかりは思い切ることが出来ないんだからね」
 勝「ヘエーお嬢さんから、野郎を引ずり込んだと仰しゃるんでげすか」
 若「お前さんでも貞婦《ていふ》両夫に見《まみ》えずということがあるは知ってるでしょう、私だって左様《そう》だわ、一旦伊之さんとあんな交情《なか》になったんだもの、世間の義理で切れましょうと云ったって、心《しん》から底から切れるなんかッてえ気は微塵もありゃアしないのさ、ひょんなことがあったからね、これでは伊之さんに邂逅《めぐりあ》っても愛想をつかされるだろうと悲しく思ってるを、伯父さんは些《ちっ》とも察してくれず、お嫁にゆけのなんのというじゃないか、私の良人《おっと》は三千世界に伊之さんより外にないんだものお前、仮令《たとえ》嫌われたって愛想をつかされたって、二人の良
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