そうに起上って、そっと音せぬように戸を開けて引入れた。男はずっと被《かむ》りし手拭を脱《と》り、小火鉢の向うへ坐した様子を見ると、何うも見覚《みおぼえ》のある菅野《すがの》伊之助らしい。伯父さんは堅い方《かた》だから、直《すぐ》に大刀《だいとう》を揮《ふる》って躍込《おどりこ》み、打斬《うちき》ろうかとは思いましたが、もう六十の坂を越した御老体、前後の御分別がありますから、じっと忍耐《がまん》をして夜明を待ちました。夜が明けると直《すぐ》に塾の書生さんを走らせて鳶頭《かしら》を呼びにやる。何事ならんと勝五郎《かつごろう》は駭《おどろ》いて飛んで来ました。
 勝「ヘイ、誠に御無沙汰を…」
 主人「サ、此方《こっち》へお這入り、久しく逢わなかったが、何時《いつ》も貴公は壮健で宜《よ》いノ」
 勝「ヘイ、先生もお達者で何より結構でがす、何うも存じながら大《おお》御無沙汰をいたしやした」
 主人「まア此方へお出《いで》、何うも忙しい処を妨げて済まぬナ」
 勝「何ういたしまして、能々《よく/\》の御用だろうと思って飛んで来やしたが、お嬢様がお加減でもお悪いのでがすか」
 主人「ヤ、其の事だテ、去
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