手を把っておのれの居間へ引入れましたが、余《あんま》り嬉しいので何も言うことが出来ませぬ。伊之助の膝へ手を突いてホロリと泣いたのは真の涙で、去年《こぞ》別れ今年逢う身の嬉しさに先立つものはなみだなりけり。是よりいたして雨の降る夜《よ》も風の夜も、首尾を合図にお若《わか》の計らい、通える数も積りつゝ、今は互《たがい》に棄てかねて、其の情《なか》漆《うるし》膠《にかわ》の如くなり。良しや清水に居《お》るとても、離れまじとの誓いごとは、反故《ほご》にはせまじと現《うつゝ》を抜かして通わせました。伊勢の海|阿漕《あこぎ》ヶ浦に引く網もたび重なればあらわれにけりで、何時《いつ》しか伯父様が気附いた。
 伯父「ハテナ、何うしたのだろう、若は脹満《ちょうまん》か知ら」
 世間を知らぬ老人は是だからいけませぬ。もうお胤《たね》が留《とま》っては隠すことは出来ない。彼《あれ》は内から膨れて漸々《だん/\》前の方へ糶出《せりだ》して来るから仕様がない。何うも変だ、様子が訝《おか》しいと注意をいたして居ました。すると其の夜《よ》八《や》ツの鐘が鳴るを合図に、トン/\トンと雨戸を叩くものがある。お若は嬉し
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