嬢さんが、斯う持った……圓朝《わたくし》が此様《こん》な手附をすると、宿無《やどなし》が虱《しらみ》でも取るようで可笑《おかし》いが、お嬢さんは吻《ほっ》と溜息をつき、
娘「アヽ……、何うして伊之《いの》さんは音信《たより》をしてくれぬことか、それにつけてお母様《っかさま》もあんまりな、お雛様を送って下すったのは嬉しいが、私を斯ういう窮屈な家《うち》へ預け、もう生涯|彼《あ》の人に逢えぬことか、あゝ情《なさけ》ない、何うかして今一度逢いたいもの……」
と恨めしげに涙ぐんで、斯う庭の面《おも》を見詰《みつめ》ますと、生垣の外に頬被《ほゝかぶり》をした男が佇《たゝず》んで居《お》る様子、能々《よく/\》透かして見ますると、飽かぬ別れをいたしたる恋人、伊之助《いのすけ》さんではないかと思ったから、高褄《たかづま》をとって庭下駄を履き、飛石伝いに段々|来《きた》って見ると、擬《まご》うかたなき伊之助でござりますから、
娘「おゝ伊之さん能くまア……」
と無理に手を把《と》って、庭内へ引込んだ。余《あんま》り慌てたものだから少し膝頭を摺毀《すりこわ》した。
娘「まア/\此方《こっち》へ」
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