して、頻《しきり》に理窟を並べて居《お》るという、斯《こ》ういう堅人《かたじん》が妹に見込まれて、大事な一人娘を預かった。お宅は下根岸《しもねぎし》[#「しもねぎし」は底本では「しもねがし」と誤記]もズッと末の方で極《ご》く閑静な処、屋敷の周囲《まわり》は矮《ひく》い生垣になって居まして、其の外は田甫《たんぼ》、其の向《むこう》に道灌山《どうかんやま》が見える。折しも弥生《やよい》の桜時、庭前《にわさき》の桜花《おうか》は一円に咲揃い、そよ/\春風の吹く毎《たび》に、一二輪ずつチラリ/\と散《ちっ》て居《お》る処は得も云われざる風情。一ト間の裡《うち》には預けられたお嬢さん、心に想う人があって旦暮《あけくれ》忘れる暇はないけれど、堅い気象の伯父様が頑張って居《い》るから、思うように逢う事も出来ず、唯くよ/\と案じ煩い、……今で言えば肺病でござりますが、其の頃は癆症《ろうしょう》と申しました、寝衣姿《ねまきすがた》で、扱帯《しごき》を乳の辺《あたり》まで固く締めて、縁先まで立出《たちいで》ました途端、プーッと吹込む一陣の風に誘われて、花弁《はなびら》が一輪ヒラ/\/\と舞込みましたのをお
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