隠しまする。
 若「もしやあなたは伊之助様じゃなくって」
 伊「そう仰しゃるはお若さんでげすね、何うしてそんな風におなんなされました」
 若「まアお珍らしい、貴方こそ何うしてそんな事を遊ばしまするのでござります」
 伊「これには種々《いろ/\》の理由《わけ》があって……今じゃアこんなお恥かしい形《なり》をしていますよ、あなたこそなんだってお比丘《びく》さんにはお成んなさったのでげす」
 若「私にもいろんな災難が重なりましてね、到頭斯ういう姿になりましたんですよ、それじゃア私がとんだ目にあった事をまだ御存知ないんですか」
 伊「些《ちっ》とも知らないから、実に恟りしましたよ」
 若「おやまア左様《そう》ですか、此処《こゝ》には誰もいないんですから遠慮するものはありません、お上《あが》りなさい」
 とお若さんは伊之助を奥へ引張りあげました。段々様子をきいて見ると、お若が狸を伊之助と心得て不所存をいたしたことも知らぬようでげす、初めは私に気の毒だと思ってシラを切っているのだろうと思ってましたが、何うも左様でないらしいとこがございますから、お若さんは根どい葉どいを致す、伊之助もきかれて見れば話
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