で煮炊《にたき》するにも及ばない、唯仏壇に向ってその身の懺悔のみいたして日を送っております。花で人が浮れても、お若は面白いこともなくて毎日勤行を怠らず後世《ごせ》安楽を祈っているので、近所ではお若の尼が殊勝《けなげ》なのを感心して、中にはその美しい顔に野心を抱《いだ》き、あれを還俗《げんぞく》させて島田に結《ゆわ》せたなら何様《どんな》であろう、なんかと碌でもない考えを起すものなどもござりました。丁度お若さんがこの庵《いおり》に籠《こも》る様になった頃より、毎日々々チャンと時間を極《きめ》て廻って来る門付《かどづけ》の物貰いがございまして、衣服《なり》も余り見苦しくはなく、洗いざらし物ではありますが双子《ふたこ》の着物におんなし羽織を引掛《ひっか》け、紺足袋に麻裏草履をはいております、顔は手拭で頬冠《ほゝかぶり》をした上へ編笠をかぶッてますから能くは見えませんが、何《なん》でも美男《いゝおとこ》だという評判が立ちますと、浮気ッぽい女なんかはあつかましくも編笠のうちを覗《のぞ》き、ワイ/\という噂が次第に高くなって参り、顔を見ようというあだじけない心からお鳥目を呉れる婦人が多いので、根岸
前へ 次へ
全158ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング