とこでげすから、お若が狸の伊之と怪しいことのあったを知らずに、嫁に貰おうと申すものが網の目から手の出る程でございますが、当人のお若は何うあってもお嫁に行《ゆ》くは嫌だと申し、いっかな受けひきません。晋齋もいろ/\勧めて見ますが何うも承知しないんであぐねております。するとお若は世を味気《あじき》なく思いましたやら、房々《ふさ/\》した丈《たけ》の黒髪根元からプッヽリ惜気《おしげ》もなく切って仕舞いました。
三
我身《わがみ》の因果を歎《かこ》ち、黒髪をたち切って、生涯を尼法師で暮す心を示したお若の胸中を察します伯父は、一層に不愍《ふびん》が増して参り、あゝ可愛そうだ、まだ裏若い身であんなにまで恥ているは……あゝこれも因縁ずくだ、前《さき》の世からの約束ごとだから仕方がない、と晋齋もお若のするが儘にさせておきました。その年も何時《いつ》しか暮れて、また来る春に草木《くさき》も萌《も》え出《いだ》しまする弥生《やよい》、世間では上野の花が咲いたの向島が芽ぐんで来たのと徐々《そろ/\》騒がしくなって参りまする。何うもこの花の頃になりますと人間の心が浮いて来るもので、兎角に
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