いるほどで、江戸中の大工さんで此家《こゝ》へ来ないものはない。そんなに持囃《もてはや》されて居りますが大芳さん少しも高慢な顔をしない。どんな叩き大工が来ても、棟梁株のいゝ人達《てあい》が来てもおんなしように扱っているんで、中には勃然《むっ》とする者もありますが、下廻りのものは自分達を丁寧にしてくれる嬉しさからワイ/\囃しています。この人の女房は、柳橋《やなぎばし》で左褄《ひだりづま》とったおしゅん[#「おしゅん」に傍点]という婀娜物《あだもの》ではあるが、今はすっかり世帯染《しょたいじ》みた小意気な姐御《あねご》で、その上心掛の至極いゝ質《たち》で、弟子や出入《ではい》るものに目をかけますから誰も悪くいうものがない。一家まことに睦《むつま》しく暮していますが、子供というものが一人もないにおしゅんは大層淋しがって居《お》るんで、大芳さんも好児《いゝこ》があったら貰って育てるが宜《い》いと云ってる。或日でござります。大芳棟梁の弟子達が寄って頻《しき》りに勝五郎の噂をしているのを姐御のおしゅんがちらりときいて、鳶頭の勝さんなら此家《こちら》へも来る人、そゝっかしい人ではあるが正直な面白い男、
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