の家《うち》へ来ても口は濡らすもんだわな、そんなに逃げてく事アねえや、己《おい》ら口説《くどき》アしねえからよ」
 女「お鍋さんまアお掛けなさいな、今丁度お煮花《にばな》を入れたとこですから、好いじゃありませんかねえ、お使いが遅いなんかと仰ゃる家《うち》じゃアなしさ、お小言が出りゃア良人《うちのひと》からお詫させまさアね、ホヽヽヽヽ、まア緩《ゆっ》くりお茶でも召上って入《いら》っしゃいってえば、そうですか、未だお使《つかい》がおあんなさるの、それじゃアお止め申しては却って御迷惑、またその中《うち》にお遊びにおいでなさいよ、その時ア御馳走しますからね、左様《さよ》なら何うもおそうそさまで、何うか旦那様へもよろしく、何うも御苦労さまで」
 とお出入先の女中と思えば女房までがチヤホヤ致し、勝五郎は早々支度をしまして根岸へやって参り、高根晋齋の勝手口から小腰をかゞめ、つッと這入ろうとしましたが、突掛草履《つッかけぞうり》でパタ/\と急いで参ったんですから、紺足袋も股引の下の方もカラ真ッ白に塵埃《ほこり》がたかッております。無遠慮《むえんりょ》な男でございますが、この塵埃を見ますとまさかに其の儘
前へ 次へ
全158ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング