やしたんで」
 主人「エー、徹夜をした、ウヽム、私《わし》も老眼ゆえ見損いと云うこともあり、又世間には肖《に》た者もないと限らねえ、見違いかも知れぬから、今夜貴様私の許《とこ》へ泊って、若に内証《ないしょ》で、様子を見て呉れぬか」
 勝「じゃアそう為《し》ましょう」
 と其の夜は根岸の家《うち》へ泊込み、酒肴《さけさかな》で御馳走になり大酩酊《おおめいてい》をいたして褥《とこ》に就くが早いかグウクウと高鼾《たかいびき》で寝込んで了《しま》いました。夜《よ》は深々《しん/\》と更渡《ふけわた》り、八ツの鐘がボーンと響く途端に、主人《あるじ》が勝五郎を揺起《ゆりおこ》しました。
 主人「オイ、勝五郎/\」
 勝「ヘイ、ハアー、ヘイ/\、アー、お早う」
 主人「まだ夜半《よなか》だヨ、サ此方《こっち》へ来なさい」
 と廊下づたいに参り、襖《ふすま》の建附《たてつけ》へ小柄《こづか》を入れて、ギュッと逆に捻《ねじ》ると、建具屋さんが上手であったものと見えて、すうと開《あ》いた。
 主人「サあれだ」
 勝「ヘイ」
 と睡《ねむ》い目をこすりながら勝五郎は覗いて見ますと、火鉢を中に差向に坐って居る
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