乃至《ないし》三人より取らさねえように仕そうなものだ、なんかんと御自分の買馴染が一座敷へ三十分と落著《おちつ》いていられないのを可愛そうに思召しもございましょう。例の花里|花魁《おいらん》でございますが、この混雑《ごった》かえしている中に一層忙がしい、今日で三日三晩うッとりともしないので、只眠いねむいで茫然《ぼっと》して生体《しょうたい》がない。お客のお座敷へ出ても碌々口もきかないが、さてこれと名ざしてお招き遊ばさるゝお方はそんなことには頓着《とんじゃく》はなさりません、只花里々々と夢中になっていらッしゃる。いま花魁の出ているは矢ッ張り軍艦《ふね》のお客で、今夜は二回《うら》をかえしにお出でなされたんでげすから、疎末《そまつ》にはしない、頻《しき》りに一昨夜《おとついのばん》の不勤《ふづとめ》を詫していると、新造《しんぞ》が廊下から、
新「花里の花魁え、一寸《ちょい》とおかおを」
花「あゝ今行くよ、ほんとにうるさいことねえ」
客「情人《いゝひと》が逢いにきたとよ、早くいって顔を見せてやるが好《よ》いわ、のう花魁、ハヽヽヽヽ」
花「御冗談ものですよ、私のようなものに情人なんかゞあるもんですか、ほんとにモウつく/″\厭になった」
新「花魁、花魁え、お手間はとらせませんから」
花「あいよ、今参りますよ」
と客に会釈して立てば新造は耳に口よせ、
新「お初会の名指《なざし》です」
花「そう、何様《どんな》人だえ、こないだのような書生ッぽだと御免蒙るわえ」
新「ナニ美男《いゝおとこ》さ、風俗《なり》は職人|衆《しゅ》ですがね、なんでも親方株の息子さんてえ様子ですわ」
と新造に伴なわれまして引附《ひきつけ》へまいりますと、三人連の職人|衆《しゅう》でございますが、中央《なか》に坐っているのが花里を名ざして登楼《あが》ったんで、外はみなお供、何うやら脊負《おんぶ》で遊ぼうという連中、花里花魁自分を名指してくれたお客を見ますると、成程新造の申しました通り美男子《いゝおとこ》で、尋常《たゞ》のへっぽこ職人じゃアないらしく思われます。あゝ好いたらしい若い衆《しゅ》だと思うと見ぬ振をしてじろり/\顔を見るもので、男の方では元より名指して登楼るくらいでげすもの、疾《とっ》くに首ッたけとなって居《お》るんでございます。軈《やが》てお引けということに成っても元より座敷は塞《
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