な方はございません。陸軍たりとて海軍たりとて勇武の御気象には少しの変りもない、日本固有の大和魂というものがお手伝をいたしますからでもございましょうが、我邦《わがくに》軍人がたの御気象には欧洲各国でも舌を巻《まい》ておるそうで、これは我が某《ある》将官の方に箱根でお目通りをいたしたとき直接《じき/\》に伺ったところでございます。これはお話が余事に外《そ》れ恐れ入りましたが、左様な御気象をお持ち遊ばす方々で在《いら》せられますから、ナニ暴風|怒濤《どとう》なんぞにビクとも為さる気遣いはない、併《しか》し永暴風雨《ながしけ》をくっては随分御困難なもんだそうで、却《かえ》って戦争をしている方が楽だと仰せられた軍人もございました。そういう御難儀を遊ばしていらッしゃるんでげすから、港々にお着《つき》遊ばしたときは些《ちっ》とは浩然《こうぜん》の気もお養いなさらずばお身体が続きますまい。それでげすから軍艦が碇泊したというと品川はグッと景気づいてまいる。殊に貸座敷などは一番に賑《にぎわ》しくなるんで、随分大したお金が落るそうにございます。娼妓のうちで身請の多くあるは品川だと申しますも、畢竟《ひっきょう》軍艦の旦那に馴染を重ねるからのことかと存じまする。丁度|紅葉《もみじ》も色づきます秋のことでげすが、軍艦が五艘《ごそう》も碇泊いたし宿《しゅく》は大層な賑いで、夜になると貸座敷近辺は恰《まる》で水兵さんで埋《うま》るような塩梅、何《いず》れも一杯|召食《きこしめ》していらっしゃる、御機嫌だもんですから、若い女子供は怖《おっか》ながるほどでございました。それでなくってさえ流行《はや》ります和国楼、こういう時には娼妓達《こどもたち》は目もまわるように忙がしい。中々一人々々のお客を座敷へ入れることは出来ません、名代《みょうだい》部屋には割床《わりどこ》を入れるという騒ぎで、イヤハヤお話になったものでございませんが、お客様がそれで御承知遊ばして在《いら》っしゃるも不思議なものでげすな。従って娼妓達が勤め向きもわるいが、馴染になって在っしゃるお客様は、アヽ彼奴《あいつ》も気の毒な、斯う牛や馬を追いまわすようにされちゃア身体が続くもんじゃないよ、なんぼ金の為に辛い勤めをするんだッて、楼主《ろうしゅ》があんまり慾張りすぎるからわるい、政府でも些《ちっ》と注意して一夜《ひとよ》のお客は二人《ににん》
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