成されよう、あゝ仕方がない、斯《こ》うなりゃア隙を見て逃げ出すまでだが、何うか伊之さんに約束した刻限まで、あゝ何うしたら逃げ出されるか知らん、うっかりした事して押えられては仕様がない、何うか甘《うま》く脱《ぬ》け出したいものだ、と頻《しき》りに考えこんでおります。伯父の晋齋も別段小言は申しませんで、只《た》だ監督して目を離さない。これにはお若さんもほと/\困りましたが、坊さんの事などは聞きもしませんし言いもしませんで、茫然《ぼんやり》欝《ふさ》いでおりますと、書生は今までお若のいた庵室を片付け、荷物を晋齋のとこへ運んでまいりましたので、
若「伯父さん私の荷物を此方《こちら》へ持ってお出でなすって何うなさるの」
晋「ハヽヽヽヽ恟《びっく》りしたか、都合があってお前は当分|私《わし》の家《うち》におくのだよ」
若「はい」
と言ったきり何《なん》にも言わず、頭痛がするといって顔をしかめます。晋齋も心中《しんちゅう》を察していると見え、心持がわるくば寝るがいゝと許しますので、お若は褥《とこ》をとって夜着《よぎ》引っ被りましたが、何うして眠られましょう、何うぞして脱出《ぬけだ》したいと只一心に伯父の隙をねらって居りますが注意に怠りはございません。さて伊之助でございますが、根岸を立出《たちい》でましてから我が宿といたして居《お》る、下谷《したや》山伏町《やまぶしちょう》の木賃宿|上州屋《じょうしゅうや》にかえっても、雨降でげすから稼業にも出られず、僅かばかりの荷物など始末いたし、お若と駈落をする支度をいたして居りまする。元より所持品がたんとあるでなし、柳行李|一個《ひとつ》が身上でげすが、木賃宿などへ手荷物でも持って参るは上々のお客様で、上州屋でも伊之助を大事にして居りましたが、日の暮たばかりの七時ごろ上州屋の表へ一輌の人力車がつきますと、手拭を姉様《あねさん》かぶりにした美婦人が車を飛び下り、あわてゝ上州屋へはいり、
女「あの此方《こちら》に伊之助さんと仰しゃる方は在《いら》っしゃいましょうね、今もおいでになりますか」
宿「ハイ、お在になります」
女「あの根岸から尋ねて参ったと、左様《そう》お願い申します」
と云うも精一杯で真赤《まっか》になる初心《うぶ》な様子を見て、上州屋の帳場ではじろ/\とながめ、急に呼んではくれません。
五
一寸《
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