、そわ/\して手荷物の支度をしてお在《いで》なさる。すると丁度お昼すぎに伯父の晋齋がぶらりと遣《や》って参ったんで、お若さんはギョッとしました。今朝鳶頭に伊之助の来ているところを見付けられたあとですから、てっきり伯父が私の様子を見に来たにちがいない、鳶頭がまさか明白《あからさま》に伊之さんの来ていたことは言いもせまいとは思いますが、若《も》しひょっと伯父さんに言ったので来たのではないか知らん、何《なん》にしても悪いところへ来たと変な顔をしております。晋齋は朝の様子をきいたのだか聞かぬのだか分りませんが、常にかわらず莞爾《にこ/\》はして居りますが、何うも腹のうちに憂いのあるらしく思われますは、眉のあいだに何《なん》となく雲でもかゝっているように、うるさいという風が見えるので、お若さん一層の心配でたまりませんから、お腹《なか》の中ははら/\としてひっくりかえるようでげす。それを見せてはならぬと十分に注意は為《な》さいまするが、なか/\見せずにおくと申すことは出来ないもので、余ッぽど偉い人でなければ喜怒哀楽を包み隠していることは出来ないそうですから、晋齋も素振の訝《おつ》なのに心はついて居りましたが、がみがみと小言を申したりなんかすると間違いでも仕出来《しでか》さんに限らないと、物に馴れておいでなさるお方でげすから、態《わざ》と言葉づかいも和《やわ》らかに、
 晋「お若、なんだ片付けものを始めたのか、ハヽヽヽヽ如何《いか》に世捨人になっても女というものは、矢っ張りそんな事をいたしておるか、こんだは大分《だいぶ》頭《つむり》も生えたようだな」
 お若は伯父の底気味わるい言葉にハッと思って胸はおどりましたが、覚《さと》られまいと態と何気なく
 若「昨日《きのう》から剃《す》りましょうと思ってるんですけれど、何《なん》だか風邪気のようですから、本当《ほんと》に汚ならしくなったでしょう」
 晋「感冐《かぜ》をひいたか、そりゃ大切《だいじ》にしないと宜しくないよ、感冐は万病の原《もと》と申すからの」
 若「はい有難うございます」
 晋「今日はの些《ちっ》とお前に相談することがあって来たのだから、まア此処《こゝ》へ来なさい」
 と申されていよ/\心配でなりません。さては勝五郎が喋ったにちがいない、こんなことゝ知ったなら伊之さんと直ぐ駈落をしたもの、まさか伯父さんに言付けはしまいと思
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