ならば此の儘、さア/\/\と糶詰《せりつめ》た後《のち》は男がそれまでに思召すのをなどと申して、いやらしい振になって騒ぎを起しまするが、女の子が男を口説《くどく》秘法は死ぬというが何より覿面《てきめん》でげす。併《しか》し当今の御婦人さま方にはそんな迂遠《まわりどお》いことを遊《あそば》す方は決してございますまい、ナニ惚れたとか腫れたとか思いますと直々《じき/\》に当って御覧なさる。先方《さき》の男が諾《うん》といえば自由結婚だなどと吹聴あそばし、また首《かぶり》をふればナニ此処《こゝ》な青瓢箪野郎、いやアに済していアがる、生意気だよ、勿体なくも私のような茶人があればこそ口説《くどき》もしたのさ、一生のうち終り初物で恟りして戸迷《とまど》いしあがッたんだろう、ざまア見あがれと直ぐ外の男へ口をかけるというように淡泊になって参りました。これははや何うも飛《とん》でもない事を申しまして、本書をお読みなさる御婦人様方には決してそんな蓮ッ葉な、薄情きわまるお方はお一人でもある気遣いはございません。この本を見たこともないと申す阿魔や山の神には兎角そんな族《やから》が往々あって困りますよ、ハヽヽヽ。何うも余事にわたって恐れ入りました。扨《さ》て伊之助でございますが、お若さんが連れて逃げてくれろと申しましたを、義理だてをして捗々《はか/″\》しく相談に乗らないところから、男を諾《うん》といわする奥の手をだし、自害の覚悟を示したのでありますから、伊之助も最《も》う是非がございません。
伊「えい危ない、何《なん》だってそんな真似を、まアこれをお放しなさいよ、はなしは何うにでもなることだから」
若「いゝえ、お前さんは私に飽きたから、それで」
伊「これさ、まアそんな強情をいわずと、あゝ困るなア、あゝまた、危ない/\、逃げろなら逃げもするから、まア刄物はお放しなさい」
若「それでは屹度《きっと》だね、屹度一緒に逃げておくれだねえ、屹度……屹度」
伊「あゝよろしい、仕方がない、逃げますとも/\嘘をつくもんですか」
と漸《ようよ》うお若を宥《なだ》めましたんで、ホッと一息つき、それでは手に手をとって駈落と相談は付けたものゝ、たゞ暗雲《やみくも》に東京《こちら》をつッ走ったとて何処《どこ》へ落著《おちつ》こうという目的《めど》がなくてはなりません、お若と伊之助はいろ/\と相談をしますが
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