》えぬ所存で…これこの通り仏に誓う世捨人になりました、伊之さん何うか察して下さいとほろりとさせる処でげすが、其様《そんな》ケレン手管《てくだ》なんどは些《ちっ》ともないお若さんですから、実は斯々云々《かく/\しか/″\》の訳あってと真実《まこと》を話します。伊之助も恟《びっく》り仰天いたして、暫らくの間は口も利きませんでしたが、それも矢っ張り因縁というものでしょうから心配なさることはないと慰さめ、此の日は何事もなく帰りまする。次の日もまたお若さんの家《うち》へ寄って行《ゆ》く、その次の日もまた寄るというようになると、お若さんも元々|厭《いや》な者が来るんでないから其の時刻を待つ、伊之助も屹度《きっと》来る、何時《いつ》何ういう約束をするというでもなく、何方《どちら》から言出すというでもなく、再び焼棒杭《やけぼっくい》に火がつくことゝ相成りましたが、扨《さて》これからは何うなりましょうか、一寸《ちょいと》一服いたし次席でたっぷり申し上げましょう。
四
さて引続き申上げておりまする離魂病のお話で……因果だの応報だのと申すと何《なん》だか天保度のおはなしめいて、当今のお客様に誠に向きが悪いようでげすが、今日《こんにち》だって因果の輪回《りんね》しないという理由《わけ》はないんで、なんかんと申しますると丸で御法談でも致すようで、チーン……南無阿弥陀仏といい度《たく》なり、お話がめいって参ります。と云ってこのお話を開化ぶりに申上げようと思っても中々|左様《そう》はお喋りが出来ません。全体が因果という仏くさいことから組立られて世の中に出たんでげすからね。何も私《わたくし》が好《すき》このんで斯様《かよう》なことを申すんではありません。段々とまア御辛抱遊ばして聴いて御覧《ごろう》じろ、成程と御合点なさるは屹度《きっと》お請合申しまする。エーお若伊之助の二人は悪縁のつきぬところでござりましょうか、再び腐れ縁が結ばりますると人目を隠れては互に逢引をいたす。お若さんの家《うち》は夜分になると伯父の晋齋が偶《たま》さか来るぐらいで、誰も参るものはございません、尤《もっと》も当座は若いお比丘さん独りで嘸《さぞ》お淋しかろうなぞと味なことを申して話しに押掛けて参った経師屋《きょうじや》もないでもなかったが、日が暮れると決して人を入れないので、左ほど執心して百夜通《もゝよ
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