認めがついて、短銃でパチンとやッつけたが、今度のは怪しいところが些《ちっ》ともないから無暗《むやみ》なことは出来ぬ、とじろり/\お若さんを見ては考えていらっしゃる、先刻《さっき》からいくら経っても伯父さんからお言葉が出ないので、
 若「伯父さん、私が重々不調法のだんはお詫いたします、何うか御勘弁あそばして、こゝへ伴《つ》れてまいったは岩次と申し、この人と神奈川におりますうち産みました子で、岩次、これがかね/″\お前にも話した根岸の伯父さんッてえので、お前には大伯父さんだから、よく御挨拶をなさい、柄ばかり大きゅうございますが、田舎で育ったんですから行儀も知りませんし、カラ意気地《いくじ》がありませんよ、伯父さん/\」
 と申しますから、言葉を交さない訳にはまいりませんので、晋齋老人も一通りの挨拶をよう/\なさいました。それから両人《ふたり》の身の上についていろ/\お聞きなされ、その間は少しでも油断なく御注意あそばしましたが、何うしても狐狸なんかでないようでげすから、ます/\不審であるから、これは病人でいるお若に遇わし二人を並べて置いての詮議より仕方がない、と御決心あそばし、
 晋「お若や、ちょいと此処《こゝ》へお出で、伊之助が尋ねてまいったから」
 と仰しゃると、一緒に参っているお若さんは平気できいている。只だ莞爾《にっこり》したばかりで不審らしい顔もしません。やがて奥から嬉しそうにして出てまいった病人のお若さん、これもたゞ莞爾いたして伊之助の傍《そば》へぴったり坐り、別に挨拶をするでもなく澄している。おどろきました伊之助、きょろ/\と両人《りょうにん》のお若さんを見まわし呆気にとられる。息子の岩次も俄にお母様《っかさん》が二人出来たのでげすから、これもボーッといたしています。晋齋老人は流石《さすが》に博識な方でげすから、二人のお若さんに目もはなさず御覧になっている。するとお若さんの形こそ両《ふた》つになっておりますが、その様子におきましては両人《ふたり》とも同じことです。一方のお若さんが物を言いかけますれば、言葉は発しませんが一方でも口をムグ/\いたしておる。また一方でお頭髪《つむり》をおかきになれば一方でもお櫛でお頭《つむり》をおかきなさる、そのさまが実に不思議でげす。そう斯ういたして居りますと高根さんの門外で容易ならぬ人ごえがするんで、晋齋老人耳をお立てなされ、
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