りながら、ポン/\と裾《すそ》をはたいて縁側へお上りになりますとき、永《なが》のお出入で晋齋先生のお気に入りでげすから、勝五郎はずか/\とおくへまいりまして、そこに出ておいでなさるお若さんを珍らしそうにながめ、何《なん》だか変挺《へんてこ》の様子で考え、まことに茫然《ぼんやり》といたして居ります。
晋「鳶頭か、よくお出でだね、お前何か心配なことでもあるのか、大層かんがえていなさるね」
勝「先生様、奇体《きてえ》なことがおッぱだかったんで、またね、狸公《たぬこう》がお若さんに化けてめえりやしたぜ」
晋「オイ/\鳶頭は何うかしているよ、お前おかしな事をいうねえ、気を落付けてゆっくり物を言いな、些とも理由《わけ》が解らないじゃないか」
勝「それがね、先生大変なんで、今狸公のお若さんが、あの伊之助野郎と一緒に私《わっち》の家《うち》へ来ているんですから、変挺じゃげえせんか」
晋「何《なん》だと……狸のお若が伊之助と一緒にお前のところへ来た、ハヽヽヽヽ馬鹿をいいなさい、お前寝惚けているんじゃないかい、そんなことがあるものか」
勝「ソヽヽそれがね、全くなんで、全くお若さんが伊之助をつれ、若い男までも引張って来ているに違いないんでげす、先生にお詫をしてくれッて」
晋「ハヽヽヽいよ/\訝《おか》しいよ、お若はこゝにいるじゃないか、殊に二十年来の病気で外出したことのないものがお前の家《うち》へ行《ゆ》くわけがないよ」
勝「さアそこだッて、それだから狸公だ、てっきり狸公にちがいないんで、よく化けあがったな、ナニようがす、先生、貴方さまが根岸でパチンとおやんなすった短銃《ピストル》はあるでしょうねえ、それを私《わっち》にかしておくんなせえまし、今度は私がパチンとやって遣るんだ」
と急《あせ》り切って前後|不揃《ぶぞろい》にお若伊之助のまいった次第を話しますので、晋齋も不審には思いますが、自分に遇《あ》って詫を為《し》ようと申すは不測《ふしぎ》な理由《わけ》、ことに子供まで出来十八九ともなっているとは解らぬ事だと、目を閉じて考えてお在《いで》になると、勝五郎は短銃を貸せ、打って仕舞うからと急《せき》たてます。晋齋は最早八十からにお成り遊ばす老人でいらっしゃるが学問もなか/\お出来になる偉いお方でございますから、先ずお若伊之助と名のるものに面会いたした上で、その者等が様子を
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