ると、土砂をかけた仏様のようにお成んなさる。余事はさておき、意地を張って身請を拒みました花里も、小主水の説得に伏《ふく》していよ/\廃業すると申しますので、海上渡さんはお鼻が高うございます。意地ばって楯をつくころは女の小面《こづら》を見ても腹が立つものだそうでげすが、さて先方《さき》から折れて出れば元より憎い女でない、廃業祝《ひきいわい》には当人の顔は勿論でげすが、廃業《ひか》せるお客海上の顔にもかゝるんですから、立派にして遣らねばならぬ、立派にしてやるが青二才の職人風情に真似の出来るもんか、己と競争|為《し》ようと思ったッて到底《とて》も及ぶまいと、大奮発《おおはりこみ》でございます。花魁花里が廃業祝の支度とゝのい、もう海上さんがお出でになるころと待ちうけて居ります。路傍の花いまゝでは誰彼《たれか》れの差別なしに手折《たお》ることが出来る、いよ/\花里の身があがなわれて見れば、なか/\自由にはなりません、主《ぬし》あるお庭の桜でげす。手でも付けようものなら、それこそ大変がおこるッていうような訳となりますんで。彼《か》の情人《いろ》の伊之吉でげすが、エー、花魁は決して海上になびく気遣いはない、まかり間違えば死のうとまでしたんだから、それに文《ふみ》の模様では小主水花魁が相変らず親切に真身《しんみ》になって世話をしておくんなさるてえから、大丈夫だ心配することはないが、何うも気になってたまらんよ、ゆうべ小主水花魁から届いた文のように旨くゆけばよいが、そうは問屋《といや》でおろしそうもないて、ひょっと仕損じて花里さんえ何処《どこ》へ往《ゆ》くんです、さアお座敷へお出でなさいよと云われた日にゃア仕方がない、いかに小主水の花魁でも斯うなったら何うも仕様があるまい、事がグレ蛤《はま》となった時は馬鹿を見るのが己《おい》ら一人だ、あれもいや/\海上に連れられて行《ゆ》く、イヤ/\仮令《たとえ》つれられて行けばとて無事でいる気遣いはない、花里《あれ》の性質はよッく知っているが、己らを袖にして生きてはいぬ、が、花里《あれ》とても素人じゃアなし、多くのお客に肌身をゆるし可愛《かわいゝ》のすべッたのと云う娼妓だ、いくらあゝ立派な口をきゝ、飽まで己らに情をたてると云ってゝも、フイと気が変って海上に靡《なび》かないとも限らないから、と頻《しき》りに考え込んでいるのは伊之吉でげすがね。花里が小
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