を知らず顔でいたんだがね、今日のように内所《ないしょ》で折檻されるを何うも見てはいられないから、疾《と》くとお前さんの了簡をきいた上で、ねえ、また膝とも談合というから話し敵《がたき》にもなるつもりなの、些《ちっ》とも遠慮することはないから、本当《ほんと》のところを言ってきかせて下さい、私は何でも内所のいうなりにお成りとは言わないよ、海上さんの身請が否《いや》なら、否のようにまた為《す》る仕方もあるだろうからね」
花「有難うございます、本当に済みません」
と又泣きくずおれまする姿を見るにつけ、其の心の中《うち》を推量致すと小主水も可愛そうになって堪りません、命までもと入揚《いりあ》げております情人《おとこ》は二階を堰《せ》かれて仕舞い、厭な客に身請されねばならぬのでげすから、我身も此様《こんな》場合にあったら矢ッ張りこの様に意地を立て、どこまでも情人の為に情を貫ぬくかも知れぬと思いますると、何うも花里に同情を寄せられるような気がいたし、胸もふさがッて参り、何《なん》とも意見の仕様がございません、暫らくはジッと見詰めていましたが、それも憐《いじ》らしくて見ていられぬ。泣ごえを立てじと忍びまする度《たび》に根のぬけた島田ががくり/\して顫《ふる》いますから、何うも身請をすゝめる事の出来ないばかりじゃアございません、感情に制せられては他人《ひと》のことで涙が浮いてまいり、横を向いて仕舞いましたが、それでも気にかゝりますので、またちょい/\と花里の泣伏す姿を見て、目を数叩《しばだた》いておりましたが、左様《そう》何時までも黙っていたとて際限がないと、
小「ねえ花里さん、じゃア何うしても海上さんのとこへは行《ゆ》きませんね」
花「姉さん、すまないが堪忍して下さい」
と申したきり、また小主水も花里も無言でいましたが、花里は何《なん》と思いましたか、顔をあげて涙をはらい、
花「姉さん、私は諦めました、いろ/\御心配をかけて、とても伊之さんと添うことは出来ますまいから」
と云ううちにまた眼には一杯の涙がたまりましたを襦袢《じゅばん》の袖でふき、ホッと溜息つき、力なく、
花「仕方がありません、海上さんに身請されますわ、今までいろ/\とお世話になりまして、御親切にして下すった御恩は決して忘れません、ナニ私があの人に義理さえ欠いてしまえば、それで何事もありゃアしませんわ、ほ
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