治を蔭《かげ》でさえ呼棄てにする者はないくらいな人望家《じんぼうか》、子供に至るまで、業平の旦那、業平の旦那。と敬って居《お》るのでありますから、文治と疑う者のないのも道理でございます。その明《あく》る日、小林藤十郎殿は本所の名主の家《うち》へ出役《しゅつやく》いたし、また其の頃八丁堀にて捕者《とりて》の名人と聞えたる手先|二人《ににん》は業平橋の料理屋にまいりました。

  二

 手先の林藏《りんぞう》と申します者が立花屋《たちばなや》へ参りまして、
 林「親方ア宅《うち》かえ」
 主「これは親分さん、さアどうぞ此方《こちら》へお上りなさいまし、おい、お火を持って来い」
 林「親方、今日来たのは外《ほか》じゃアねえ、少し大切《だいじ》な事があって来たのだから不都合のねえように云ってくんなよ」
 主「へえ大切な御用と云うのは何事ですか」
 林「奥に友之助が隠れているな」
 主「えっ」
 林「やい親爺《おやじ》、とぼけるな、それだから予《あらかじ》め不都合のないようにしろと云ったんだ、二三|日《ち》前から緑町《みどりちょう》の医者が出入《でいり》をしているが、ありゃア誰が医者にかゝって
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