がら申上げます、逃げたとはお情ないお言葉でござります、たとい敵《かたき》の片割《かたわれ》数人を切殺すとも、目指す敵の蟠龍軒を討洩らし、其の儘相果て申すも残念至極でござります故、瓦をめくり草の根を分けても彼を尋ね出《いだ》し、遺恨を霽《はら》した其の上にて潔《いさぎよ》く切腹いたそうか、斯《か》くては卑怯《ひきょう》と云われようか、寧《いっ》そ此の場で切腹いたそうかと思案にくれて居りますところへ、何処《どこ》で聞付けましたか下男森松が駈付けまして、母の大病直ぐ帰るようにと急立《せきた》てられて、思わず帰宅|仕《つかまつ》りました、ところが案外の大病、母の看護に心を奪われ、思わず今日《こんにち》まで日を送りましたる次第、心から女々しき仕打を致しました訳ではございませぬ、文治の心底、御推量下さらば有難き次第に存じ奉ります」
奉「ふうむ、確《しか》と左様か」
文「恐れながら一言半句《いちごんはんく》たりとも上《かみ》を偽るような文治ではございませぬ、御推察を願います」
奉「うむ、同心、源太郎を引け」
同心「はゝっ、業平橋|三右衞門店《さんうえもんたな》源太郎、這入りませえ」
奉「源
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