ましょうか。白洲には砂利が敷いてあって、其の上は廂《ひさし》を以《もっ》て蔽《おお》い、真中《まんなか》は屋根無しでございます。正面に蓆《むしろ》の敷いてある処は家主《いえぬし》、組合、名主其の外《ほか》引合《ひきあい》の者が坐《すわ》る処でございます。文治は今日お呼出しになりまして、奉行石川土佐守御自身の御吟味、やがてシッ/\という警蹕《けいひつ》の声が聞えますと、正面に石川土佐守|肩衣《かたぎぬ》を着けて御出座、その後《うしろ》にお刀を捧《さゝ》げて居りますのはお小姓でございます。少しく下《さが》って公用人が麻裃で控えて居ります。奉行の前なる畳の上に控えて居りますのは目安方《めやすかた》の役人でありまして、武士は其の下の敷台の上に麻裃大小なしで坐るのが其の頃の扱いでございます。一座定まって目安方が名前を読上げますと、奉行もまた其の通り、
 奉「本所業平橋当時浪人浪島文治郎、神田豊島町|惣兵衞店《そうべえたな》亥太郎、本所松倉町|源六店《げんろくたな》國藏、浪人浪島方同居森松、並《ならび》に町役人、組合名主ども」
 と、一々呼立てゝ後《のち》、
 奉「浪島文治郎、其の方儀|去《さん》
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