U》きました。掌《て》の上に乗せて、ためつすがめつ見る様は、始めて手にしたものとは思われませぬ。
 文「こう喜ぶところを見ると、金《かね》ということを知って居《お》るものと見え。併し島司が有って見れば、この金を遣《や》ったところで、自分の物にするという訳には行《ゆ》くまい」
 と感付きましたから、又々銭を出してやりますと、島人は両手を支《つ》き、頭を下げて喜んで居《お》りまする。

  三十五

 さて文治は島人の喜ぶ様子を見まして、
 文「漸《ようや》く心が解けたと見えるわい、さア舟を漕ぐように」
 と手真似で知らせますると、島人は頷《うなず》き、箆《へら》のような物を出しまして、ギュウ/\と漕ぎ始めました。只今の短艇《たんてい》のようなものと見えます。始めの内は風もなく、誠に穏《おだや》かな海上でありましたが、夜《よ》の更《ふけ》るに従って浪はます/\烈《はげ》しく、ざぶり/\と舟の中に汐水が入りますのみか、最早|小縁《こべり》と摩《す》れ/\になりまして、今にも覆《くつがえ》りそうな有様でございます。文治は心の中《うち》に、
 「又も難船か、何《なん》たる不幸の身ぞ、八百万《やお
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