「だ甲斐もなく、とうとう日は暮れて四方八方|黒白《あやめ》も分らぬ真の闇、併《しか》し海は陸《おか》と違いまして、どのような闇でも水の上は分りますが、最早《もはや》三人とも根《こん》絶え力尽きて如何《いかん》とも為《せ》ん術《すべ》なく、舟一ぱいに水の入った其の中へどッかり坐って、互に顔を見合せ、只|夜《よ》の明けるのを待つのみでございますが、そうなると又長いもので、中々夜が明けませぬ。運を天にまかして船の漂うまゝに彼方《あちら》へ揺られ、此方《こちら》へ流されて居ります内に、東の方がぼんやりと糸を引いたように明るくなりました。さては彼方が東か知らん、夜が明けたら少しは風も静まるであろうと思いの外《ほか》、明るくなっても風は止まず、益々|烈《はげ》しく吹いて居りまする。三人とも心付いて見ると、櫓櫂《ろかい》も皆吹流されてしまいました。
 船頭「やア、これじゃア風が止んだって何処《どこ》へも往《ゆ》かれることじゃねえ、情《なさけ》ねえな、吉、もう是までの運命と諦めろ」
 文「まア/\待て、決して短気な事をしては成らんぞ、今にも大船《おおぶね》が通らぬとも限らぬ、又異国の船でも此の難儀を見
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