齟ハしていやす、まア一降り降りやすか風が変らねえば、とても沖へ出ることはなりやせん」
 文「はゝア、然《しか》らば舟子《ふなこ》が出ぬのかな」
 主「いくら銭を出しても命にゃア替えられねえと云って、往《い》く者がありやせん、まア二三日|逗留《とうりゅう》なさるが宜《よ》いね、また海でなくともへえ見物場《けんぶつば》アえらく有りやすでえ」
 文「そういう訳では何《ど》うも致し方がない、事によると二三日厄介になるかも知れぬ、兎も角も御飯の支度をしてくれんか」
 主人はにこ/\笑いながら、
 主「へえ御機嫌宜しゅう、こりゃアお客様に飯を上げろえ」
 後《うしろ》の襖《ふすま》を開けまして、年の頃四十前後の飛脚体《ひきゃくてい》の者、旅慣れた拵《こしら》えにて、
 旅「えゝ御免下せえまし、只今隣で聞いて居りますと、海辺を御見物なさりてえと亭主へお頼みなさりましたが、宿屋てえもなアいやはや狡《ずる》いもんでしてね、三四|日《か》御逗留を願《ねげ》えてえもんだから、あんな事を申しやす、私は此の辺を歩きます旅商人《たびあきんど》で、こゝらの船頭に幾干《いくら》も知った者がありやすから、直《す》ぐに頼
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