ニころへ、熊が飛返ってまいりまして、正面からお町の顔を見て居《お》る其の物凄《ものすご》さ、両眼|烱々《けい/\》として身を射らるゝの思い、普通《なみ》の婦人なら飛掛って突くのでございましょうが、流石《さすが》文治の女房、胆力も据《すわ》って居りますから、じっと堪《こら》えて此方《こなた》も熊を見詰めて居りまする。熊はだん/\近づいて、今度はお町の顔となく手となく嗅ぎ始めました。お町はいよ/\気味が悪くなって突こうかと思いましたが、この時は日の暮方《くれがた》で、穴の様子も確《しか》と分りませんから、じっと辛抱して、いよ/\となったら突いてくれようと身構えて居りまする其の恐ろしさは何《なん》に喩《たと》えようもございませぬ。暫くして熊は後《あと》へ退《さが》り、しず/\と児《こ》の側へ往《ゆ》きましたから、お町も少し心を落着けまして、人に物をいうような静かな声で、
町「これ、そちは私を何《なん》と思うぞ、くれ/″\も猟人《かりゅうど》ではない、また悪人でもないぞよ、山賊のために追掛けられ、過《あやま》って此の穴へ落ちたのじゃ、決して其方《そち》に手出しはせぬ、どうぞ私を助けてくれ、こ
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