イ守に向いまして、
右「いかに御奉行、唐土《もろこし》から種々《いろ/\》の薬種《やくしゅ》が渡来いたして居《お》るが、その薬種を医者が病気の模様に依《よ》って或《あるい》は緩《ゆる》め、或は煮詰めて呑ませるというのも、畢竟《ひっきょう》多くの病人を助ける為で、結句《けっく》御国《みくに》の為じゃの」
土「御意にござります」
右「日本の島々に居《お》る者でも随分用いように依ると、国の為になる者もあろうの」
土佐守は御老中が突然《だしぬけ》の問《とい》に、はて奇妙なお尋ねも有るものかなと暫く考えて居りましたが、もとより奉行でも勤めるくらいのお方でありますから、それと心付きまして、
土「御尤《ごもっと》もにござります、思召《おぼしめ》し通り取計らいましょう」
とお受を致しました。別段申上げませずとも、文治を赦免いたせと云う思召であると云うことは皆様もお察しでございましょう。奉行は役宅へ帰りまして、「三宅島罪人|小頭《こがしら》浪人浪島文治郎儀、流罪人扱い方宜しく且《かつ》又当人島則を厳重に相守り候段、神妙の至りに付、思召を以て流罪赦免致すもの也」という赦免状を認《したゝ》めまして、その赦免状の三宅島に着きましたのは、天明《てんめい》の前年|即《すなわ》ち安永《あんえい》九年初夏の頃でございます。さてまた本所業平橋の文治留守宅におきましては、主人《あるじ》が流罪の身となりましたので、お町は家計を縮め、森松を相手に賃仕事などして、其の日/\を煙を立てゝ居ります。松屋新兵衞を始めとして亥太郎、國藏も文治の恩誼《おんぎ》を思い、日々夜々《にち/\よゝ》稼ぎましては幾許《いくら》かの手助けをして居ります故、お町は存外困りませぬ、或日《あるひ》友之助が尋ねてまいりまして、
友「へえ、お頼み申します、友之助でござります」
森「やア友さん、よく来たなア、大分《だいぶ》暑くなったじゃアねえか、さア上らっしゃい」
友「時に御新造様は御機嫌宜しゅうござりますか」
森「あゝ別に変った事もねえね」
友「それは何より結構、へえ御新造様、おや今日《こんにち》はお土用干《どようぼし》でござりますか、これは皆旦那様のお品々、思い出すも涙の種、御新造様世の中には神も仏もないのでございましょうか…これも旦那様のお品でございますな」
町「それに就《つい》ていろ/\お話があるのでございま
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