メ|思召有之候《おぼしめしこれありそうろう》に付、遠島中軽々しく取扱い申すまじく候事、町奉行公用人某印」
としてあります。さア其の頃の事でございますから、町奉行公用人の裏書は中々幅の利いたものでございます。一同顔を見合せましたまゝ別に評議もいたしませぬが、以心伝心で文治に十分の利を持たせ、結句平林は自業自得、殺され損ということに落着《らくちゃく》いたしました。尚《な》お別席に於て諸役人一同評議の上、文治を呼び出して、「今日《こんにち》より右平林の後役《あとやく》は其の方に申付けるによって役宅に住《すま》い、不都合なきよう島内|囚人《しゅうじん》の取締を致せ、下役人一同左様心得ませえ」との有難き言渡しでございます。文治は恐入って両三度辞退いたしましたが、お聞済《きゝずみ》がございませぬから、余儀なくお請け致しました。文治は上々の首尾にて白洲を引取り、何《ど》うなる事かと心配して居りました徒党の囚人《めしゅうど》一同に向いまして、
文「各々方《おの/\がた》お悦び下さい、拙者は軽くって切腹、重くって縛り首と覚悟してお白洲へまいりしところ、上《かみ》のお慈悲を以て罪をお免《ゆる》し下されたのみか、勿体なくも平林殿の後役を不肖《ふしょう》文治に仰付《おおせつ》けられました、一同左様心得ませえ」
一同夢かとばかり暫《しば》し呆気《あっけ》に取られて居りましたが、
一同「え旦那、貴方《あなた》へお取締役を申付けたのでござんすかえ」
文「如何《いか》にも」
一同「それじゃア嬉しいなア、流石《さすが》にお役人様にゃア眼が有らア、時に私《わっち》どもが徒党の罪は何《ど》うなったのでござんすか」
文「そち達は好んで徒党いたした訳でない、平林の非道に堪《た》え兼て起った事ゆえ、今度に限り其の罪を宥《ゆる》すとの事じゃ」
と聞くより一同|雀躍《こおどり》して、
「えっ無罪、え、も勿体《もってえ》ねえ、旦那様お有難う存じます、天道様《てんとうさま》は正直だなア」
と一同手を合せ大声を上げて泣出しました。文治も共に涙に暮れて居りましたが、稍《やゝ》あって声を和《やわ》らげ、
文「えゝ各々少し文治がお前達にお頼みがあるが、快く聞済《きゝす》んでくれるか」
一同「そりゃア旦那様、何事かは存じませんが、私《わっち》どもの命を助けて下すった恩人の仰しゃること、何事によらず承わり
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